子どもの遊びとおもちゃ

7月に行われた生涯学習センター講座「瞳きらきら」交流会で子ネットがお話させていただいた内容に加筆修正しました。【2020.4.rev.】

子育て支援センターや拠点、児童館、子育てサロンなどは、おうちにはない、いろんなおもちゃで遊べる機会です。保育園仕様の本格的なものや、ヨーロッパの木のおもちゃ、工夫された手作りおもちゃなどなど、せっかくだから、いっぱい、いろいろ遊んでみよう…と目移りしちゃいますよね。子どももあれこれさわって、楽しそうです。やっぱりお家でも「良いおもちゃ」をたくさん揃えた方がいいのかしら?

遊び=生活
子どもにとって遊びとは生活のほとんどを占める大切なもの、人生そのものです。

年齢が小さいほど生活と遊びは未分化です。じっと見ること、声を出すこと、身体をばたばた動かすこと、手を使うこと、人とかかわること、それも遊びです。手足や全身、全感覚を使って自分の周りの環境を探索し好奇心と興味を働かせ、対象物を観察しながら、ものの性質(形、重さ、動きなど)を知り、それにあわせて身体の動きを調節します。身体の発達にともない、探索できる空間が広がり、対象物の範囲も広がっていきます。

その過程では、おもちゃと実際の道具の区別もまだついていません。おもちゃをいじくっているからといって「意識的に遊んでいる」わけではないし、日用品たとえばティッシュをケースから引っ張りだしているのも「いたずらしている、わざと困らせている」わけではなくて、どちらもそうしたいからそうする、そのように生きる=生活の一環としての行為です。

小さな子どもは感情もまだ細分化されていませんから、自分にとって「快/不快」「好き/好きじゃない」を基準に行動します。「快」だからやる、それが「楽しい」「もっとやりたい」と思う、行動を繰り返す、次のやり方を試してみる、それが「遊び」の本質です。その「快」の感情を引き出してくれるモノが、おもちゃなんですね。

モノと関わるときの、子どもの行動の発達

見る    興味を示す
聞く    興味を示す、集中する
握る    反射的に反応する
つかむ   興味を示し、腕や手指を意図的に動かす
なめる   興味を示し、口も使って探索する
つまむ   親指と人差し指の先をコントロールして使う
入れる   つまんだものを手指の先から離す
出す    そこにあることがわかり、意図を持って行動する
ふりまわす 腕と手を使って、複雑な動きをする
ひっぱる  全身を使って、複雑な動きをする
たたいて音を出す 自分の動きが反応をもたらすことを確かめる
秩序をつくる
 集める   同じものを集めるという概念を持つ
 ならべる  目的をもって自分なりの世界をつくる
 重ねる   バランスを考えて手指を操作する
秩序をこわす
 こわす   なぜどうなっているか、自分がかかわるとどうなるかを試すために、破壊する
 ひっくり返す  入っているモノを確かめる、全体を把握する
 周りに散らかす  好きなものをみつけたい、囲まれたい
 崩す    音や刺激、周りの反応を楽しむ
 落とす   自分の前からなくなる感覚を不思議に思う
 投げる   腕を振り上げ、力を入れて肩をつかう動作ができるようになり、今までよりも大きな反応が起こることを楽しむ、思い通りに操作できず、怒りの感情を力いっぱい表現する行為ともなる
 繰り返す  やりたいことを見つける、集中する

おもちゃ選びのヒント
このような子どもからのさまざまな働きかけに応えてくれるようなものが、おもちゃになります。
小さい頃は、あえてたくさんの種類のおもちゃを揃えなくても、使い方が限定されない頑丈なものがいくつかあれば良さそうですね。もちやすくて、同じものがいっぱいあって、投げたり落としても大丈夫なもの… 積み木、ボール、ペットボトルキャップ、紙、布など。

さらに、子どもが大きくなるにつれ生活体験も増え、言語能力も発達し、自分の世界を自分で表現したり、何かに見立てたり、想像力を発揮できるようになってくれば、子どもの働きかけに応じてカタチのかわる応答性の高いものや、シンプルなデザインのものが、子どもに想像の余地を与えてくれます… 積み木、チェーンリングをつなげたもの、粘土、砂、ブロック、布、段ボール等。

あえて「おもちゃ」を用意するよりも、日常使っている「ホンモノ」の方が子どもになじみやすいこともあります。子どもが興味を持って注視したもの、自ら触りに行ったもの、それがすべておもちゃになるんですね。大人がそれに気づいてあげられるかどうか、おもちゃとして与えるセンスを持てるかどうか。危ないもの、さわられるとイヤなものは子どもの視界から除いておいて、あとはある程度、自由にさわらせてあげればいいんじゃないかと思います… 洗濯バサミ、ペットボトル、缶、ボールと泡立て器とお玉、ざる等。

大人がすること
上記のようなモノを用意したからと言って、さらに「良いおもちゃ」とされているものを与えたからといって、自然に遊べたり、想像力が育つわけではありません。やはり身近で生活をともにしている大人からの働きかけが必要です。リアルな生活と抽象的なおもちゃを結びつけていく過程には、大人との応答的あそびや、ていねいな言葉がけが助けになります。

赤ちゃんが手を伸ばしたら、「はい、どうぞ」と言葉を添えて渡してあげて、赤ちゃんが「自分の働きかけ(手を伸ばす)に答えてくれた、うれしい」と思えるような信頼関係を結びましょう。離乳食が始まったら、遊びにも「はい、あーん」「おいしいね」「あむあむ」など、動作と言葉を対応させる「ふり遊び」を取り入れて、生活体験と遊びと言葉を結びつける働きかけをしてみましょう。  

1歳半~2歳頃のまだ小さい子どもには、ゼロから何かをイメージして何かをつくりあげるような想像力(創造的想像力)はついていません。この頃の子どもは再生的想像力、すなわち体験したこと、あらかじめ知っていることをイメージとして再生する、抽象的なおもちゃを具体的なモノに「見立て」る想像力を伸ばしましょう。見立て遊びは、リアルな生活の経験が土台となります。生活をともにしている大人が、次につながる言葉がけをしながら一緒に遊びたいものです。

想像力を育む日常生活
見立て遊びには、頭の中にあるイメージを具体的に表現していく力が必要になります。そんな力を身に付けるには、日ごろの生活の中での大人からの言葉がけが何より大切です。目の前のモノやできごと、音、においなどに言葉を添えることによって子どもの頭の中でそのイメージが定着していきます。そのイメージを表す手段や方法が多ければ多いほど、想像力が豊かで、物ごとをあらゆる方向から見る力がついているということになるでしょう。  

例えば買ってきたトマトを一緒に見ながら「トマトだよ」「赤いね」「丸いね」と言葉を添えます。子どもは遊びの中でトマトを、四角くても赤い積み木や、黄色くても丸いボールで表現するかもしれません。お散歩の途中で見た大きなダンプカーも「おっきいねー!」「荷物を載せてるんだね」と話します。今見たダンプカーと大人から聞いた言葉によってできたイメージから、大きな箱に荷物に見立てたおもちゃを積んで動かす表現、見立て遊びにつながっていくでしょう。

直方体の積み木をひとつ渡して、「この積み木、何に見えるかな?子どもの気持ちになって言ってみて下さい」とママ達に聞いてみたことがあります。ママ達から出てきた答えは、かまぼこ板、まな板、積み木は積み木…それはそれで良いのですが…。

子どもにはこれが、「バス」「電車」「船」「スマホ」「ベッド」に見えちゃったりするんです。子どもが積み木を上から持って横に動かしていたら「ぶーん」など言葉を添えてみましょう。子どもが今、入り込んだ世界を認め、「走ってるんだね」「車かな、バスかな」「バスなのね。お客さん乗っているのかな」「スピード出てるね」など会話をつないでみましょう。「どこに行くかな」「動物園行くのね」「ぞうさんいるかな」とさらにイメージを広げていくと、この前家族で行った動物園の体験と想像の世界がリンクし、確かな土台を持った空想の世界ができてきます。食玩のフィギュア人形などを横に置いておけば、積み木に載せて「ボク、ママ、パパ」と家族遊びに発展するでしょうし、直方体の積み木をつなげて、でんしゃごっこに発展するかもしれません。子どもは「今」を飛び越えた新しい世界で、新しい自分になりきっています。なりきった子どもからの発信を大人は否定せず(「あれ、バスじゃなかったの?」なんて言わず)、正さず(「パパはいなかったよ」なんて言わず)、先回りせず(「駅がいるね」なんて積み木を出して作り始めず)、むしろ、おもしろがってとことん付き合いましょう。否定されずにじっくり相手してもらうことで、子どもは好きなことに取り組み続けることができ、集中力の礎を身につけることができます。

遊びの広がりとともに
2歳~3歳ごろになると子どもの発達とともに、その子なりの特徴が現れ、好みや興味が出てきます。「これがほしい」という具体的な欲求も出てくるでしょう。電車が好きなら電車のおもちゃ、ままごとが好きなら本格的なままごとセットやキッチンをそろえてみても良いでしょう。デザインはやはりシンプルで、頑丈で、いろんなパーツと組み合わせられるものを。支援センターやサロンでずっと気に入って遊んでいるおもちゃがあれば、それを選んでみるのも良いと思います。買わなくても、そこに通い続けて遊べばいいんですけど、やっぱり「自分だけで自分のやりたい時に自分の思い通りに全部、自分でとことん」使える道具は、子どもが満足して遊びこめます。特にままごとは、子どもにとってまさに生活の延長でもありますから、ママの真似っこしたい、自分もやりたい、と自発的に始める遊びです。男の子にも大人気です。良質のおもちゃを選んであげたいですね。  

こうやって十分遊んでおくと、3歳以降に集団生活に入る次の段階で、「好きな遊び」を土台にしながら、お友達とのコミュニケーションを深め、かかわり合いながら、集団でのおかあさんごっこ、お姫様ごっこ、幼稚園ごっこ、闘いごっこ等に移行していけます。

おまけ:キャラクターもの、戦闘もの
キャラクター禁止という園も一部あるようですが、テレビやキャラクターにまったく触れずに過ごすのは難しいですよね。キャラクターは子どもに「自分がよく知っている、親しみがある、守ってくれる」という安心感を与えてくれますし、単純な造型は子どもにとって、まねっこしやすい存在でもあります。ある研究では親がキャラクターを受容しているかという態度は、子どものキャラクターの好みには影響していないことが示されました。子どもはそれが好きだから、好きなんです。

男の子の「戦闘もの」も、発達のひとつの過程だと思います。3歳を過ぎると子どもは性のアイデンティティを獲得し男女の好みの差もはっきり出てきて、周りの友だちも意識して好きなキャラクターを選びます。さらに男の子っていきなり「敵と闘う」モードに想像力が飛んでいきますからね、想像とリアルを結びつけるアイテムが変身ベルトだったりします。彼らの気持ちを尊重するなら、闇雲に否定しなくても良いと思います。
(2016年8月号 子どもの遊び おもちゃ)

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