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園での教育、お家での子育て…園長先生に聞いてみました

 最近は小さいときから保育園に行く子が多いし、家で親が子どもを見ているより専門の先生に育ててもらった方が良いのかな、早くから集団に慣れさせた方がいいのかなとか、保育園は長い時間、預かってくれるけど教育はしない、幼稚園はすぐ帰ってくるけど教育してくれる、こども園は教育も保育もするっていうけど、どう違うのかよくわからない…そう思っている方もいるかもしれません。

 世の中が大きく変化し、子育てや保育ニーズの多様化にあわせて制度もどんどん変わってきています。さらに昨年、保育園、幼稚園、こども園の基準となる法令が同時に改訂され、今年4月から施行されています。

 園での教育、お家での子育てについて、園長先生にお話しを伺ってきました。


小泉敦子さん


名古屋植田ヶ丘こども園長。公立幼稚園、大学、民間保育園勤務を経て平成5年の設立当初から名古屋植田ヶ丘保育園に勤務。平成16年より園長。平成28年に幼保連携型認定こども園に。大学でも教鞭を取る。臨床発達心理士でもある。


植田ヶ丘は、「こども園」なんですよね?


 もともとは、平成5年に保育所として開設されました。世間では、保育所は教育をする場ではないと思う人が多かったのですが、設立時から幼児期の教育は保育園にもあるという認識で保育にあたってきました。

 こども園は教育と保育を一体的にやる制度として10年以上前からあったのですが、運営側としては使いづらくてなかなか広まりませんでした。それが平成27年に国の子ども・子育て支援新制度が施行され、こども園の制度も改善されました。当園は、保育も地域の子育て支援も大事にしている園だと制度として認められる形にしたかったこともあり、平成28年に幼保連携型認定こども園になりました。


4月から幼児教育が保育園、幼稚園、こども園、ぜんぶ同じになったとのことですが…。


 今までもめざすところはほぼ同じだったのですが、今回指針や要領が一括的に改訂され、保育園でも幼児教育が積極的に位置づけられるようになりました。学校の学習指導要領も同時に改訂され、教育によって育みたい資質・能力について、幼児から小学校以上の教育まで明確に一貫化されました。画期的なものだと思います。幼児から小学校への接続時の成長の様子の共通の目安として示された「入学までに育ってほしい姿」は、保育園でも幼稚園でもこども園に入っても同じで、3施設とも幼児教育施設と位置付けされました。どの施設においても「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が明文化され、より具体的になっています。


幼児教育って、具体的にどんなことでしょうか?


 幼児教育は、学校のように先生が前に立って、子どもは椅子に座って教科書を開いて、先生が一方的に教えるものではありません。「さあ、今から教育の時間ですよ」といってみんな一斉にといったスクール形式とは異なります。幼児期の教育は、実際に見て、聞いて、触ってなど五感を働かせられる豊かな環境の中で遊びを通して始まります。その中で、あれもやってみたいという意欲や好奇心を育て、どうしてといった疑問をもったり、こうしてみよう、うまくいかないなあ、どうしたらいいのかななどと考えることや、工夫する態度が生まれてきます。自分なりに目標を立てて、その目標に向かって諦めないでいける粘り強さも、育ちます。大きくなっていけば、友達と一緒に意見を重ね合わせながら、より深い学びになっていきます。この実体験を通しての心情・意欲・態度が、小学校以降の文字学習における学びにおいて、根幹たるものになります。

 例えば、鉄棒という活動です。外遊びという自由な活動の中で、子ども達は園でのお兄ちゃんたちがやる格好いい「逆上がり」に憧れる。できるようになりたいと思って、毎日毎日、やり続ける。お兄ちゃんや先生のアドバイスを取り入れて粘り強くやる中で、足の上げ方、リズム等コツをつかみ出来るようになり、満足感を得て、また、次の技に挑戦していきます。やりたい、どうしよう?どうしたら?あきらめない、やったぁ、できた!今度は?この心もちや姿勢を養っていくことが、幼児教育において最も大切です。

 字や数の概念習得も、園の毎日の生活の中で知りたいときに覚えるのが大事と考えます。「自分の名前の字と一緒だね」「この字もおんなじだね」「もっと知りたい」「お友達に手紙を書きたい」「絵本もよめたよ」とか、お店屋さんごっこで値段をつけたり、数えたり並べたりなどすることで、自然に文字や数に触れ、知りたいと思う知識欲が生まれます。遊びのなかで学べる、そういう連続した学びの環境を整えるのが大事なんです。

 園庭でもこんな光景が見られます。

子ども「ダンゴムシいたよ」「いっぱーい、いた」 
保育者「どこにいたの」 
子「石のしたにいたよ」 
保「他にもいるかな」
子「うえきばちのしたにもいたよ」 
保「どんなとこかな」
子「くらいとこ」 
保「こっちにもいるかな」
子「ここにはいないよ」 
保「どうしてかな」
子「こっちはかわいてる」 
子「何食べて大きくなるのかな」
子「足がいっぱいあるね」「これが顔かなあ」「たまごだ」
保「ほんとだ。図鑑で調べてみようか」

 トコトコ歩き始めた乳児から幼児まで、みんなダンゴムシ探しに夢中です。年齢が高くなるにつれて疑問もより深くなっていきます。

 子どもが自分で興味を持ち、何かに気付き、自分の身体を使って確かめ、試し、考えながら進めることによる学び。それが毎日の生活の中のあらゆる「時間」と「空間」にあるはずです。当然、園生活の中にも、組み込まれて保障されていることが必要でしょう。保育者は子どもの学びを受けとめたり、時には一緒に考えたり寄り添っていきます。学びは幼児といわれる3歳以上の子どもだけではなく、0歳からでも始まっています。どの子にも、生き生きとした学びができるーそういった環境を整えるのが、園の役割です。それは玩具や遊具だけではなく、小さな生き物、日差しや風、植物など季節や天候による小さな変化も感じられる自然の環境作りも大切なことです。大きくなるにつれて園生活の中で「仲間」というもう一つの間を見つけて、より深い学びになっていきます。

 幼児教育は、現場としては、今回の改訂以前からやってきたことで、大筋は変わっていないんです。子どもにとって良い環境を整え、子どもの学びに向かう心情・意欲・態度を育てるーそれに尽きるんです。その引き出し方は園によっていろいろですが、好きな遊びをたっぷりすることで、学ぶ。そのための環境設定や働きかけが重視されるようになり、園や保育者の力量がより試されるようになりました。


子どもが主体的に学ぶといっても、大人の関わりがいるんですね。


 小さな子どもは人やモノとの関わりの中で遊び、学び、育っていきます。その中で一緒に感じてくれる人、支えてくれる人が必要です。

 また、人と関わり一緒に遊ぶことで、遊びがもっと楽しくなるんだと分かることは、友達と一緒に遊ぶともっと楽しくなる、面白くなることにもつながっていきます。


園の先生と親とを、子どもはどう受け止めているんでしょうか。


 園の先生は、子どもにとっては「偉大な存在」なんだろうと思います。ともすれば家族よりも長い時間を一緒に過ごしていることも多いのですが、それでも子どもにとって先生は親ではない別の存在。一緒に遊んでくれて、楽しませてくれる。甘えてもいい人。悲しい気持ちもわかってくれる。いい悪いを教えてくれる。「偉大な」という言葉は意外かもしれないですが、子どもはそんな感じに思っているのではないでしょうか。

 親は、「あたりまえの存在。絶対の存在」。自分のために絶対いてくれる人。何があっても頼れる、いつでも甘えられる、自分だけのことを心配してくれる存在。朝起きたら横にいる人、生活の中で隣にいる人、寄り添ってくれる人。働くママは園の先生よりも短い時間しか一緒にいないかもしれないけれど、先生とは違う深い絆でやはり結ばれているんだと思います。親より長い時間を過ごしたとしても、私たち、保育者は親にはかないません。

 どちらが大事、ではなく、どちらも違う存在なんだと思いますよ。どちらからも大切にされているという確信があるから、子どもは自分を好きになり、豊かに育っていくんです。


家で子育てすると、学ぶ機会や刺激が少ないでしょうか。


 親が子どもといられる時間がたっぷりあって、ゆったり一緒にいることは、幼い子どもにとって幸せなことです。困ったときにすぐにきてくれて、一対一で、自分の思いにつきあってくれる、親はその子の自己肯定感を伸ばしてくれる存在なんです。すばらしいことをしているんです。園でも一人一人を大事にするためいろいろ工夫はしていますが、集団保育です。ずっと1対1はなかなか難しい。

 家族サービスで、どこか特別なお出かけ場所に行くよりも、近くの公園に手をつないで行って、そこでたっぷり遊ぶことが子どもは幸せだと思います。なじみの場所で親子で会話をしながら、小さな変化を見つけ、子どもの心の動きに気付き、「いいわねえ」「そうなのねえ」と引き受けながら学びにつなげる…幼児教育そのものですよね、それを自分で毎日やっているって、すごいんですよ。

 ただ、子どもはある意味、宇宙人。ずっとつきあっていると大人が疲れてしまうのは、あたりまえです。家で一人で子育てをしていると、確かに苦しいと思います。特に今の世の中では、親としてだけではなくひとりの人としての時間が必要ですから、子育てに追われてストレスを感じるのはあたりまえです。ママの役割から逃れて、息抜きする時間が必要です。子どもから離れる時間を持つだけで、違ってくると思いますよ。日中は園庭開放に通ってもらうのもいい。子どもには刺激になるし、親は保育者や他の保護者と大人同士の会話ができますよ。お家では、パパが少しの時間でもママを子どもから解放してくれるといい。リフレッシュ保育や託児を利用してみるのもいい。子どもを預けることに罪悪感なんて感じなくていいです。疲れたら休みましょう。


 子どもはいつか親から離れ自立します。それをいつも頭にいれて、子どもを尊重し、接することが、結局は子どもの自立にもつながりますし、親もどこか客観的になると、子育てが苦しくなくなるかもしれない。保育者もそうですが世話しすぎはよくないんです。大人は子ども自身の生きる力を尊重しながら、見守っていく、そういう存在でありたいですね。


2018年6月号
保育所 こども園 幼稚園 保育


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