PAKUっ子特集アーカイブ

お家でできる!子どもの発達心理学実験

中京大学心理学部 助教 田渕 恵


 今年も心理学部の学生子育てサポーター22人が天白区内外の17家庭におじゃまして、お子さんの発達や、子育ての実際を体験させていただいています。そこでも取り上げた実験と赤ちゃんて本当にいろんなことができるんだ!ということがわかる実験をご紹介します。
参考文献:『日曜ピアジェ 赤ちゃん学のすすめ』開一夫、岩波書店、2006年


1)生まれながらのコミュ二ケーション能力~新生児模倣実験~


対象月齢:生後すぐ~1ヶ月頃
方法:約15秒間、赤ちゃんの目の前で、舌をゆっくり出したり引っ込めたりする。
結果:赤ちゃんも舌を出したり引っ込めたりする動作を真似する。
解説:赤ちゃんは鏡で自分の顔をみたことがありません。まだ自分の顔がどうなっているか、どこをどう動かすとどういう形になるのかを、知らないはずです。でも、まねっこするんです。これは相手に「まねしてくれる!うれしい!かわいい!」と思わせて、自分をお世話してもらえるように、自分で自由に動かせる場所=口を反射的に動かす、そういう生来備わった模倣能力とも考えられます。この反応は2ヶ月未満で消えます。

・口を開けたり閉じたりするのも、トライしてみてください
・やってみたけど、まねしなかった~
・「うちの子、やらなかった」って声が意外と多いんです


2)顔色を読む能力~スティル・フェイス(静止顔)実験~


対象月齢:2ヶ月~8ヶ月頃
方法:赤ちゃんと目が合うような体勢にする。最初の1分間は笑顔で、いつも通りに話しかける。次の1分間はなんの感情も含まない「無表情=静止顔」で、声は出さずにじっと赤ちゃんを見つめつづける。その後の1分間は、最初と同じように笑顔で話しかける。
結果:「静止顔」のときに、赤ちゃんは顔をそむけたり、むずかったりする。
解説:怒った顔や悲しそうな顔をしたわけではないのに、赤ちゃんは不快になるんですね。さっきまでニコニコしてくれた人が急に無表情になる、つまり相手の顔からも言葉からも何のサインもこないことを察して、赤ちゃんの方から「いやだよ」というサインを出して、相手の反応を引き出そうとしているのです。コミュニケーションとは、自分と相手とのサインのキャッチボールであるということが、この時期に既にわかっているのです。

・ママの無表情って、赤ちゃんにトラウマになりませんか?
 →大丈夫です。実験の翌日に赤ちゃんのストレスを測ったが影響はなかったという論文がでています

・1分間も集中して見てくれなくて,うまくいかなかった
 →お家にはいろんな刺激があるから、それに気を取られて、ごきげんなままだったり、なんの反応もしないこともあるかもしれません


3)みえなくなってもそこにあることがわかる能力~対象の永続性実験~


対象月齢:9ヶ月~12ヶ月過ぎ
方法:同じハンカチを2枚と、そのハンカチで隠せる大きさのおもちゃを用意。赤ちゃんが手を伸ばせば取れる位置におもちゃを置く。
1.おもちゃの上からハンカチをかぶせて隠す。手を出して取ろうとするか?
2.ハンカチを2枚ならべ、赤ちゃんの目の前で、1枚の下におもちゃを隠す。隠した方から撮ろうとするか?
3.2の課題がクリアできたら、2とは反対側のハンカチの下におもちゃを隠す。

結果と解説:1の実験を5、6ヶ月の赤ちゃんにやってみると、「見えないものは、そこにない」と思って興味を失い、探そうとしません。9ヶ月くらいになると「見えなくてもここにあるよ」がわかるので、1をクリアします。また、「誰も動かしていないんだから、ここにあるんだ」という認知も発達するので、2もクリアします。これが3の課題になるとなぜだか、すぐにできない子が多いのです。

・うちの子、できなかったんですが…
 →心理学の実験は、この月齢の子ども達にこの実験をしたら、傾向としてこういう行動をしたということを明らかにする手段で、個々のお子さんの発達や能力を検査するものではありません。今回できなかったからといって、問題はありません。実験に誘っても「やりたくない、興味がない」というのも、赤ちゃんの立派な意思です。


4)自分を自分として認識する能力~マークテスト~


対象月齢:14ヶ月~24ヶ月
方法:子どもが遊んでいる最中に、気付かれないようにこっそり、頭にシールを貼る。しばらくそのまま遊ばせたあと、子どもの前に大きめの鏡を持ってきて、「これ誰かな?」と聞く。子どもがシールに気付いてとろうとするかどうか、観察する。
結果と解説:鏡に映った自分を見て、シールに手を伸ばそうとすれば「鏡に映っているのは自分自身だ」と認識している証拠です。月齢がこれより低いと、鏡に映っている「映像」に興味は持ちますが、「自分の姿」だとは思わず、自分の頭についているシールを取ろうとはしないのです。同じ実験をサルに行うと、鏡の映像を敵だと思って攻撃します。「鏡に映っているのは自分だ」という理解は高度なものなんですね。

・うちの子、小さい頃から鏡のおもちゃをよく見てるんですが…
 →鏡はキラキラして、いろんなものが次々に映ってくるので、小さい子にも刺激的で魅力的なんです。自分の顔が映っても、その映像に反応しているので、自分を自分として見ているわけではないんです


5)自分の心と、他人の心は違うことを理解する能力~「心の理論」サリーとアンの課題~


対象年齢:3~7歳
方法:サリーとアンが遊んでいる絵を見せる。サリーは、なべでにんじんを料理している。サリーが見ていないときに、アンはにんじんを冷蔵庫に入れる。サリーはにんじんがないのに気付く。さて、サリーはどこを探すでしょうか?
結果と解説:「冷蔵庫!」と答えるのは大体4歳以下です。「だって、アンはにんじんを冷蔵庫に入れたよ」と「自分が見て、知っていること」を答えるのです。つまり「自分の知識」と「サリーという他人が持っている知識」は違うんだということの理解があいまいなんですね。「なべのまわり!」と答えられるのは4歳で半々、完成するのは7歳くらいだと言われています。つまり「サリーは、アンがにんじんを冷蔵庫に入れたことをしらない」ことがわかる、「他の人は自分とは違う知識や感情を持っている」ことを理解するのは、それくらいの年齢だということ。たとえば遊んでいる時に「自分はやりたい」けど「相手もやりたいと思っている。自分はちょっとがまんして、相手が喜ぶことをしてあげよう」といったことや、「わたしはこう思うけど、あの子はそう思わないかもしれない」という推測ができるのは、この時期まで難しいということです。

・3歳ですが、「どうぞ」とか「ごめんね」とか相手を思いやった言葉が言えますよね?
 →「こういうときは、こうする」というパターンで言葉を使っているのではないかと思われます。集団の中で遊び、行動するための社会性は、それまでのしつけや教育でも育まれますから、そこで身につけたマナーとして使いこなしているのではないでしょうか

 ご紹介した実験で、子どもが自分自身をどう認識し、他者とどう関係を結んでいくかの発達が順を追ってわかるようになっています。1)は反射的ではありながらも模倣で他者との信頼関係を結ぼうとし、2)では相手の状況によってサインを変えてコミュニケーションをはかろうとする、そしてそのサインに相手が答えてくれることで「自分は他人に興味を持ってもらっている」という自己肯定感を培う、さらに4)で自分が他人とは違う姿をしていると自己を認識し、5)で自分が思っていることと他人が思っていることは違うんだということを、だんだん理解していく。生まれてから数年のうちに、ここまで能力を発達させていく過程が見えます。乳幼児期は、文化の影響を受けにくい時期とされ、どの国の子どもでも同じような反応と発達を見せてくれます。

 心理学では「人間のすべての行動は、何らかの刺激があって心がうごいた結果、生まれる」と考えます。例えばママが笑った、うれしい、自分も笑った、またママも笑った、笑うと気持ちの良い状態になる、だからまた笑おう…。ママの笑顔という「刺激」によって引き起こされた「自分の心の動き」と「自分の行動」をつなげ、繰り返し行うことで、自分がどう行動していくと心地よいのかを学習し、他者とうまくやっていくための行動の法則をつくりだしていく、社会性を身につけていく…ということです。赤ちゃんは誰かに頼らないと生きていけないですからね、あらゆる「刺激」から学ぼうと必死です。一方、新しい刺激に対して積極的に興味を示す子と、慎重になって抑制的な行動をとる子が見られます。これは、その子に生まれながらに備わった「気質」であると考えられています。乳幼児期は気質の傾向により得意不得意が出てくることがあるので、その子を理解する手助けとして知っておくと良いことがあります。それはまた次号で詳しくお話ししますね。

2018年11月号 発達 心理


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