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がまんの発達心理学

中京大学心理学部 助教 田渕 恵(文、イラスト)


専門は赤ちゃんから高齢者までの発達心理学。多世代の世代間交流による育ち合いが現在の主な研究テーマ。2018年より現職。各地で子育て支援講座等の講師も行っている。

11月号では、子どもが自己を認識し、他者とコミュニケーションをとっていく発達の過程をご紹介しました。今回は、子どもがどのように「がまん」を身につけていくかお話しします。
参考文献:『マシュマロ・テスト』ウォルター・ミシェル、早川書房、2015年


1)実験「マシュマロ・テスト」


 最近、話題になったので、ご存知の方も多いかもしれません。1960年代にウォルター・ミシェル博士によって開発された「子どものがまんする能力」を調べた有名な実験です。

対象月齢:2歳過ぎ~小学校入学前くらい

方法:子どもをイスに座らせ、目の前の机にマシュマロ(お菓子)を1つ置いておく。「マシュマロを食べてもいいけど、ママが戻って来るまでの15分間、食べるのをがまんできたら、もう一つあげるよ。ママがいない間に食べちゃったら、2つめのマシュマロはないよ」と言って部屋を出る。子どもは食べるのをがまんして、2つめのマシュマロをゲットできるでしょうか。

結果:2歳は、実験の意図(待てば良いことがある)をそもそも理解できず、マシュマロを食べてしまう。3歳半は、意図を理解しているようだが目の前のマシュマロに気がいって、食べてしまう。4歳では、がまんしてマシュマロを2つ手に入れられたのは三分の一くらい。小学校入学前の6歳くらいになると、ある程度の子ががまんして2つめのマシュマロを手に入れられる。がまんできたとしても15分間を落ち着いて過ごせた子は少なく、机やイスを蹴って誘惑に抵抗したり、目をふさいだり、後ろを向いたりしてマシュマロを見ないようにする、においをかいだり、ちょっとさわってみたりするなどいろいろと知恵をしぼって、食べたい誘惑に打ち勝つ攻略法を試していた。実験の映像はコチラ→https://www.youtube.com/watch?v=QX_oy9614HQ

解設:目の前にある報酬(マシュマロ)をすぐ享受してしまう衝動をがまんして、長期的にみれば利益になる行動(15分間待つ)を選択できるか否かを調べています。心理学の言葉では自己制御能力、セルフコントロールです。この実験のポイントは「食べちゃダメだよ」と大人が指示して待たせるのではなく、「今、食べても良いが、がまんして待てば、マシュマロが2倍になる」という選択肢を示して、子どもが今と将来を天秤にかけて、自分はどうするかじっくり考えて行動できるようにしているところです。
 大人を対象にした同じような実験もあります(今すぐ1万円もらうか、3ヶ月後に2万円もらうか等)が、全員が3ヶ月後の2万円を選択した訳ではないということも、わかっています。


2)がまんできるかが、将来に影響する?


 「食べたい」という熱い欲望と「待てば2倍になる」という冷静な判断、ホットとクールと考えるとわかりやすいですが、クールシステムはホットシステムよりも後からゆっくり発達し、個人差も大きいのです。個人差がその後の発達に影響するかを調べた研究では、幼児期でマシュマロを待つことができた子どもは、成長してからも自己制御能力が高いという結果が報告されています。つまり4歳の頃に行ったマシュマロ・テストですぐにマシュマロを食べてしまった子どもは、大人になってもがまんすることが難しい。またある研究では、幼児期に自己制御能力が高い子どもは、青年期の学業成績や対人スキルなどの得点が高いことが示されました。

 「うちの子に試してみたら、すぐにマシュマロを食べちゃった!この子の将来、真っ暗?」…こんなことを聞いたら親は青ざめてしまいますよね。でも小学校に入る頃には多くの子どもが「がまんして待つ」力を発達させますし、成績やコミュニケーション能力は環境によってもかわりうるものです。欲望と抑制をバランスをとりながら上手にコントロールする手法はいろいろと研究されています。生まれてから老いるまで、さまざまな場面に遭遇しながらずっと学んでいく大事な能力です。


3)がまんの発達


 がまん=自己制御能力は、なんでもかんでもしたいことをがまんさせてひたすら耐えさせる、というものではありません。「おやつはまだ!」と大人が指示したから食べなかった、「ダメ」と言われたから待った、それを「がまんができた、成長した」というのではありません。子どもが自らやってみよう、やりたいと思ったことを自分の力でじっくり考えながら、失敗してイヤな思いをしても「放り出したい気持ち」を抑えて問題解決を行う、というときに発揮される能力を言います。

 それはいつ頃からできるようになるのでしょうか。心理学では、ある時期(年齢、発達段階)に大事なこと(発達課題)を習得して次の段階にスムーズに移行すると考えています。がまんの発達をこの考え方から見てみます。

 まず最初に、周囲の刺激や自分の欲求に対して苦痛や恐れといった「情動」が引き起こされる能力が発達します。赤ちゃんは「おなかすいた!」という刺激によって「食べたい!」という欲求を持ち、「不快」な情動から「泣く」という行動を起こし、その結果、ママにおっぱいをもらうことができて安心快適になります。この繰り返しによって、自分の情動で行動すると相手の行動を引き起こすんだと学び、自分の欲求をあらわすことに自信を持ち、相手への信頼も持つようになります。

 2、3歳のイヤイヤ期は欲求全開、自分の中のルールで相手の手を借りずに行動しようとします。「やりたい」という感情の表出はとても大事です。ここを尊重されて、自分でやってみる経験を積んでこそ、次の段階のがまんができるようになるのです。

 その後ゆっくり発達するのが、自己制御能力です。前回ご紹介したサリーとアンの課題、「自分の心と他人の心が違うことを理解する能力」がついてくるのと同じ4歳頃から徐々に発達し始めます。ワタシはこれが得意だ、こうしたいと自分の欲求も大事にして積極的にいろんなことに関わりながらも、周囲の状況を把握し事実を分析し、他人の感情も理解しようとする、そしてうまくやっていくために自分の感情をコントロールする。マシュマロが食べたい欲求と行動を、「待てば2つもらえる」という事実をしっかり把握し待つという、感情を制御した行動ができるようになる。

 そこに至る前、3~4歳頃は周囲の反応によって自分の身の処し方を学習しているようです。お家のしつけや園の教育で「待ちなさい」と言われたから「待てばほめられる」と思って、待つ。まだ他律的ですが、環境に合わせて行動する順応力をつけていきます。

人生のこころの発達(エリクソン:発達心理学者)

上段:発達段階
下段:発達課題
赤ちゃん 信頼
欲求のみ
生き延びるために、自分の欲求を発信する。泣く。相手が自分の発信に応答して世話してくれることで、自分と他者への基本的信頼感を持つようになる。

2・3歳児 自主性
欲求>>がまん
イヤイヤ期は、なんでも自分でやりたい期。イヤといえるのは自主性の発露。今が大事、今の自分はこうしたいと思っているから、マシュマロは食べるのが正解。

園児(3~5歳) 積極性
欲求>がまん、欲求=がまん、欲求<がまん
自分がやりたいことと相手がやりたいことが違うことを理解し始め、周りとの関わりの中で生きて行く能力や自分をコントロールする力を付け始める。


4)がまんができるようになる環境・対応


 周囲の大人が、子どもがじっくり考えて自分で問題解決できる状況を設定することが大事だと言われています。例えば、子どもと一緒に何かを作る遊びの場面で、子どもが「うまくできない!」と言ってきたとき。

×おとな「ちょっと貸して。やってあげる」
 横から手を出して早くキレイに完成させれば子どもは喜ぶかもしれませんが、イヤな気持ちをがまんしてがんばって工夫するという経験を積めず、自己制御能力は鍛えられません。

×おとな「自分の工作だから、自分でやらなきゃ」

 自主性を尊重しているようでいて、子どもの発信を受け止めずに放置しています。できない不快、受け止めてもらえない不快のダブルショックで、子どもは不快な状況を避けようと工作をやめてしまいます。がんばる力もつきません。

○おとな「うまくいかなくてイヤなのね」「どこができないの?」

 まずは子どもの感情を受け止めます。「投げ出さないの!」と、ここでがまんを強要しないでください。次に状況を自分で把握させます。どうしてできないのか、もう一度やったらできるのか、どこを手伝ってほしいと大人に頼むのか、子ども自身で考え、自ら解決する方法を粘り強く探して行動するのを、大人が「待つ」姿勢が大事です。

 大人が子どもをあまりにも管理しすぎない、ことです。失敗というリスクを避けさせるのはかえって危険です。失敗しないように欲求を全部きいてあげると、自分でやってみようとする積極性がなくなります。大人が正解をすぐに教えて解決したり、子どもの道筋を決めて子どもの行動をコントロールしすぎたりすると、子どもは自分で自分を制御させる機会を失います。自分でがんばった経験がないと、自分が本当にやりたいことがわからなくなってしまい、ひいては自分はこうしたい理想とこれができるという現実の同一性を考える思春期に自分の土台がないことに気づき、不安定になってしまいます。

 がまんの発達を知りながら子どもと接すると、今の子どもの行動も発達の道筋にあるんだと落ち着いてみていられるのでは。また、自己制御能力には個人差があることを知っていると、大人同士の人間関係にも役立ちます。相手はホットとクールどちらのバランスに寄っているか判断しながら、ホットで共感的なコメントにするか、クールで具体的なアドバイスにするのかこちらの対応を決めていけば、相手の情動に自分が翻弄されないですむこともあります。


2018年12月号 発達 心理 がまん


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