春のおさんぽ~自然とふれあいながら行う子育て~【2011年4月号】

五藤悦子
東海医療工学専門学校講師。30年以上保育士をつとめた後、乳幼児の保育や環境指導法を教える。

春。毎日何気なく通っている道ばたや公園にも、いろんな「春」があります。子どもはそういうものを見つけるのが大好き。いっしょに春を楽しむ遊び方を「自然大好き人間」の先生に伺います。

身近な自然、親の関わり

小さな子どもは毎日の生活の中で身近な環境からさまざまなことに興味や関心をもち、楽しんだり、考えたり、遊んだりしながら自分の中に取り入れていこうとします。外遊びやおさんぽなど日常生活でふれる自然も、子どもにとっては新鮮な興味の対象となります。今の子育てはどうしても室内で遊ぶことが多くなりがちです。だからこそ親がひと手間かけて「身近な自然」「おそと」に子どもを連れ出し、自然やいきものに「ふれあう」機会を作りたいですね。お外が苦手、紫外線や花粉や虫や暑さが苦手なママも多いかもしれませんが、親の意向で子どもの成長の機会をストップさせないでほしいのです。

幼児の行動は、周りの大人の「まねっこ」から始まります。まずは周りの大人が自然との関わり方のお手本を見せてあげましょう。子どもは自分が信頼する大人(ママやパパ、先生など)が喜んで楽しそうに自然と接したり、工夫して活用している姿を印象強く記憶します。そして、その体験や記憶を積み重ねながら、ものの扱い方接し方や喜怒哀楽などを学び、一人の人間として成長していくでしょう。小さいころにたっぷりと自然とふれあった経験は、かけがえのない思い出として心に残り、やがて命への思いやりや、生きることへのひたむきさとなって、子どもたちを支えていってくれるのではないかと思うのです。

「ダメ」「バッチイ」「かわいそう」「虫、イヤ~~」などと言って、はじめから拒否しないでください。子どもが興味をもったものに共感し、次の興味を引き起こすきっかけとなり、楽しい思い出となるような、親子のつながりを深めてほしいのです。

たとえば… タンポポで遊ぶ

道ばたのタンポポを見つけて「タンポポさいてるねえ」と声かけします。子どもはお花を摘むでしょう。自分のものにしたいという興味が出たのです。「かわいそうだからとっちゃだめよ」って言わないで、体験させてあげましょう。

ママも一本摘んで「きれいねえ」って声をかけると子どもは「きれい」という言葉と「こういうときに使う」というつながりがわかり、「ママといっしょ」を感じ、良い気持ちになります。「共感の気持ち」です。さらにタンポポを腕輪にしたり髪にさして子どもを飾ってあげて「カワイイ」「かっこいい」「わー、キレイ!」などと声掛けすれば、子どもは気分よく、うれしくなるでしょう。

ママがタンポポをたくさん摘んで花束にして子どもに見せてあげれば、子どももママのまねをしてたくさん摘もうとするでしょう。「同じものをあつめる」っていう子どもの習性が刺激されて、どんどん摘むでしょう。「やってみた、ママがよろこんだ、ママのまねをした、おもしろかった、またやってみたい、もっとやりたい」とどんどん興味が湧き出て次の行動につながっていきます。

少し時間がたつとタンポポはしおれます。そんな時は「しおれちゃったねえ、ばいばい」って捨てないで「お家に持って帰ってお水をあげようか」と「次につながる提案」をしてみてください。お水にさしてピーンとなったタンポポを一緒に見て「よかった!元気になったねえ」と喜び合いましょう。子どもは「お花に水をあげると元気になる」ことを自然に覚えます。

摘んだ茎の先が裂けて水につかると、くるんとカーブすることも見えるでしょう。「ほら、みて」と声をかければ子どもは「へえ」とおどろき、「すごいな、おもしろいな、かっこいいな」なんて強い印象が残るでしょう。ついでに花びらも一枚ちぎって、「タンポポは小さな花がいっぱい集まってるんだね」なんていいながら分解してみましょう。

季節が進んでタンポポが綿毛になったら、ママが種を飛ばす遊びを見せます。子どももおもしろがって、つぎつぎにふーふーやるでしょう。そのとき「こんな小さな種になったんだね」と声をかけると「へぇー」「これがタンポポの種なんだ~~」という観察への興味も生まれるでしょう。大人は「これがこうだ」ということを知識として知っています。それを先回りして「知識」として子どもに教えるのではなく、遊んでみせることで子どもの気づきを促す。「ふしぎだね」と共感しあい、「じゃあ本でみてみようか」と親子で図鑑を探してタンポポの項目を見つければ「あった、タンポポは小さなお花の集まりでその一つ一つが種になるんだ、そうなんだ、わかった!うれしい!」という感情が子どもの心に生まれます。そこまで思考できない小さな子どもでも「えほんにある。いっしょ」と見つけるのがうれしくなります。体験が知識として残る。その繰り返しです。興味からはじまり共感と体験と感動を通して知識につながる。

科学的な思考だけでなく、「たのしい思い出」として子どもの心に残ったものは子どもの「表現」として現れてきます。砂場やままごと遊びのときの「飾りイコール表現」になったり、少し年長になれば絵画や制作でも表現していくでしょう。年齢が上がるにつれ、たくさんの経験や体得した知識が子ども自身の中で関連づけて出てくるようになります。テレビや勉強でつめこむだけでなく、たのしみの中で得た知識は強く残り、それが想像力や科学的思考や表現力になっていくのです。

アリを殺す子ども

子どもは小さないきものが大好き。ダンゴムシ、てんとう虫、チョウなど見つけると「つかまえたい」「自分のものにしたい」気持ちが高まります。「虫はイヤ、ダメ」と言いたい気持ちをぐっとこらえてママも手のひらにのっけてみて「へ~~、ダンゴムシさんはあんよがいっぱいあるんだね」「あれ、丸くなったね」「あ!動き出した!すごいね」なんて共感してあげましょう。子どもはそのうち何十匹もダンゴムシを集めてくるようになるかもしれません、ダンゴムシさんのおうちを作りたい、なんて言い出すかもしれません。それもあたたかく見守ってやってくださいね。しばらく見たり、お話したりしたら、「ダンゴムシさん、おうちに帰りたいって。ママが待ってるから、かえしてあげようね」と元の場所にかえしてあげましょう。

アリがいると足でつぶして殺す子も少なくありません。動いているものが自分の働きかけで動かなくなる、その現象が不思議で、何度も確認しているんです。「殺しちゃだめ、かわいそうでしょ」とすぐにやめさせるのではなく、「動かないねえ」「死んじゃったかもねぇ」と一緒に観察しましょう。「よく見る、さわってみる、いろいろためしてみる、繰り返す、探求する、印象に残る、感動する」そういう一連の流れからアリ殺しも起きているのでは。もちろん、度を超したアリ殺しには「いっぱい死んじゃったねえ、かわいそうねえ」と感情を伝えていくのも大切です。いろいろ繰り返し体験するうちに「死んだものは生き返らない」ことがわかり、「生と死」そして命を大切にする、などもだんだんわかっていきます。はじめから親の意向でストップをかけるのではなく、子どもの興味をある程度見守ってあげたいですね。

身近なところで

道ばたのタンポポ、石の裏のダンゴムシ、地面のアリの巣…。なんでもない所にもいろんな自然がありますが、もっと多くのいきものを見たければ近くの公園などに出かけると新しい発見があるでしょう。たとえば…天白公園の原っぱ、天白川沿いの緑道、平針駅の北側の田んぼのあぜ道、愛知牧場の原っぱ、神社やお寺。雑木林に入ればまた違ったいきものにも出会えるでしょう。

お家でもお子さんとご一緒に植物を育ててみませんか。プランターなどで二十日大根の種をまいて育ててみることをおすすめします。栽培が簡単ですし、すぐに大きくなりますし、赤くてかわいいものができてそれが「食べられる」となれば、子どもにはたまらない魅力になるでしょうし。食育にもつながりますよね。

身の回りにあるいきものや植物に興味を持って、名前を覚えたり、親しんだりする内に、自然はきれいだな、おもしろいな、大事にしたいなと思うようになり、大人になったら自分なりの「癒しの場」「ほっとするところ」として大事にしていこうと思い、ひいては環境問題にも興味を持つ人間として成長していってくれる、そういうことを願ってやみません。

(2011年4月号 お外遊び)

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