託児のときに、子どもが「泣く」ことについて【2014年8月号】

チャイルドマインダー、保育室みぃな
菊地久美

一時保育や託児付き講座・イベントなどで、わが子を初めて「他人」に預けたとき…もう大泣きで、大泣きで、かわいそうなことしちゃったなんて、へこんだことありませんか?「預けてみたい」と思っても、そういう話を耳にすると躊躇してしまうこと、ありませんか?のびのび子育てサポート事業の提供会員として、またチャイルドマインダーとして「初めての託児」のお子さんを数多くお預かりしている菊地さんに、子どもの気持ち、ママの気持ちを整理してもらいました。

保育園などに日常的に通っていない、ふだんは家庭でママといっしょに過ごしている0〜2歳くらいのお子さんをお預かりする機会が多いです。心理学の専門家ではないのですが、お子さんの様子、お預かりするときのママの様子などから、私なりにこうじゃないかな、というところをお話しますね。

泣きます

まずみなさんにお伝えしたいのは、「泣く」ことを肯定的にとらえよう、ってことです。子どもは泣きます。ママがいても、泣きます。ママがいなければ、もっと泣きます。泣くことは決して、悪いこと、マイナスではありません。

お預かりのとき、ママとバイバイするときに子どもが泣くのは、ママがいなくてびっくり、不安だ、寂しい、不快だ、心配だ…そういう子どもが今まで経験したことのない気持ちに気づき、それを体で表現できている、感情を表に出せている、新しい経験を積めたんだ、と肯定的にとらえていいと思うのです。私のせいで子どもを大泣きさせている、不憫だ、悪いことをしている、と思わなくてもいいんじゃないか、ということです。

もちろん、いろんな感情が渦巻くのはあたりまえ。子どもとママ、それぞれの行動と感情をひもといてみましょう。

子ども

お預かりのときには、子どもは2つの「心のハードル」を乗り越えなければなりません。ひとつは「知らない場所/人」というハードル、もうひとつは「ママから離れる」ハードル。場所へのハードルは意外と低いようなのですが、ママと離れるハードルは、個人差はあるものの、かなり高い。

「知らない場所」へ置いていかれて、子どもはまず不安になります。動けなくなる。ママとバイバイしたドアの前から動かずに泣き続けるお子さんも、珍しくありません。「ママはここから出て行った」だから「ここから帰ってくる」とママが戻ってくることを予測し、期待し、「ここ」にずっといる。さらに、ドアノブを動かしたり、ドアを叩いたり、けったり、叫んだり。こうすればママに届くんじゃないか、気づいてくれるんじゃないか、試している。「ここ」にいることで、自分の心を必死に支えている。

でも、なにをしても、どんなに泣いても、通じない。ママが来ない。今日はいつもと違う…そこに気づくと、子どもはふと辺りを見回し、大泣きするのをやめてしゃくりあげたり、泣くのをやめます。気持ちを整理して、自分を取り戻そうとします。泣きやむきっかけを探っているようでもあり、まだあきらめきれなくてママを思い出してまた大泣きすることもあります。感情の振れ幅を行きつ戻りつ、今いる環境イコール新しい場所、保育者を見て、新しいものに手を伸ばしたり、保育者に体を預けて抱かれたり、おひざに乗ったり、ママじゃないけど、この人でもまあいいか、と受け入れ始めます。

泣いている感情の変化

・不安だ:いつもとちがう、なじみがない、みたことがない
・びっくりする:どうしたらいいかわからない、ママ以外のこの人とどうやってつきあっていいかわからない
・感情の発散:自分でよくわからないが不快感があるので、泣いて発散する
・自己主張:ママに気づいてほしい、試してみる
・自己防衛:泣くことで一定の感情表現をしているので自分を維持できている、周りの刺激をシャットアウトする、守れている、自分を慰める
・自分の気持ちを整理

ママ

子どもといざバイバイするとき、後ろ髪をひかれる気持ちにママがなるのは、ごく自然ですよね。預けなくてはならない理由がある。今は、お別れして行かなきゃ。でも、何かを察したのか子どもが大泣きする。一気に気持ちがへこむ。子どもがかわいそう。大泣きさせてまで行く用事なのだろうか。子どもに寂しい思いをさせていいのか。私のわがままじゃないのか。泣かせている自分への罪悪感。お願いしますって保育者に言ってみたものの本当にいいのか、この人で大丈夫なのか…。そういう割り切れない思いがあるので、子どもに口ではバイバイ言っても、すぐにはそばを離れられなかったり、玄関でためらってしまったり。決心がつかない様子を見せると、子どもはもしかしてもっと泣いたらママがいてくれるんじゃないかという期待を持ちます。

どのみち最終的にはバイバイするのなら、「期待させる」時間は短い方がいいんじゃないか、と思います。保育者がよく「さっさと行ってください」「振り返らずに、いさぎよく出かけてください」ってママに声かけしてますが、せかしているわけじゃないんですよ、気持ちを切り替えてくださいってことで。今泣いている子どもの世話をするのは、ママのアナタから保育者のワタシの役目になったんですよ、って。

さてドアの向こうに出たものの、ママの気持ちもまだ整理がつかないでしょう。子どもはまだ泣いている、かわいそう、ママを恨んでいないかしら、キライにならないかしら、落ち着かない気分だ、せっかく自分の時間なのに楽しめない、心配…揺らぐ気持ちはあたりまえです。このような初めての経験には、ママは 「楽しさ」よりも「不安」の方を大きく感じてしまいがちです。

ママの不安の気持ち

・泣かれるのは:ストレス、イヤな気分になる、物事がスムーズに進まない
・泣かせたのは:かわいそう、罪なことをした、子どもに負担をかけてしまう、トラウマにならないか、泣かせるようなことをした自分は悪い母親だ、これでいいのか
・泣く子は:人に迷惑をかける、自分の思い描くような子どもではない、自分の育て方が悪いと思われるのではないか
・泣かせてまで:そこまでする価値があるのか、他人に対応させていいのか、泣き止まないのは保育者の世話が悪いからではないか、大丈夫か

保育者

子どもの場面場面の気持ちに寄り添うことを心がけています。おもちゃを使ったり、おもしろいことをしたりして、すぐに泣き止むことを子どもに求めるのではなく、まず「ママがいなくてさびしいね。不安だね」と声をかけながら、子どもの気持ちに気長に向き合います。少し落ち着いた様子が見えたら、子どもが許してくれる距離を守り、急がず、「適度なお世話」をすすめていきます。すると子どもは「ママとは違うし、ママみたいに大好きな人じゃないけど、自分の泣きたい気持ちにつきあってくれるから、まあ、今はアンタでいいよ」と保育者に目線を向けたり、体を預けたりし始めてくれます。

思うに、子どもは新しいことを受け入れる力(好奇心)が本来備わっていて、だからこそ成長していける。でも受け入れるには大人の導き、サポートが必要で、ママがいなければいないなりに、子どもは子どもで自分の力で周りに対応して自分を取り戻す力を発揮していくという潜在的な能力がある、と思うのです。ママは「この子は自分がいなければ何もできない」と思いがちかもしれませんが、第三者(保育者)が関わることで見えてくる子どもの能力もあるのです。

月齢/年齢による子どもの反応(子どもによって個人差があります)

・6ヶ月頃迄:ママがいなくても、おだやかに過ごせる。
・人見知り期(7〜9ヶ月頃):ママ以外の他人を激しく拒否。抱っこしても、つっぱる。泣きながら入眠。
・1歳前後:最初は泣くが、あやすと新しい刺激に釣られて遊びだす。
・1歳4ヶ月頃:激しく泣く。長引く。ママが絶対必要という度合いがマックス。ママが安全基地(愛着関係)。ママから「置いていかれた」ことがわかるので、激しく泣く。
・2歳過ぎ:最初は泣くが、感情を自分でコントロールできるようになってきて自分なりの過ごし方を心得るようになる。何回か経験してお預かりに慣れてくると、泣かずに、ママを振り返りもせずに、遊びに行ってしまう。

ただいま

さて、ママが「ただいま」と帰ってくると、子どもはほっと安心した顔をママに見せて、抱きついていきます。
このときに、ぜひ、こういう言葉がけをしていただきたいのです。

「ただいま。待っていてくれて、ありがとうね。ママがいなくて心配だったね。待っててくれたおかげでママ、ご用を済ませることができたよ。ありがとう。」

子どもの不安だった気持ちを受けとめて、言葉にして代弁し、さらにママの感謝の気持ちも伝える。それを聞いて、ママが気持ちを受け止めてくれたんだと子どもが感じてくれたら、大丈夫。「わ~、そんなに泣いてたんだ~」とはぐらかしたり、「大泣きして迷惑かけてしまってすいません」なんて保育者に気を使ったりはしないように。

「こんなに泣くんだったら、この子がかわいそうだから、もう次は預けるのはやめます」「こんなに泣いて親子関係が壊れちゃうのでは」「ずっと泣いてましたって、お金払ったのに、どういうこと」…少なからず、このようなことをママは感じるかもしれません。保育者としてママの気持ちに応えられなかったことは、技量不足のところもあるかと思います。ただ、子どもがずっと泣いている状態でも適切な対応がなされていれば、大丈夫なんだよ、とも言っています。適切な対応とは泣き止ませる、ということではなく、泣きにとことん付き合い、気持ちに寄り添いだっこしたり、声かけしたり、そばにいたり…泣くという子どもからの「発信」に、大人として対峙しているよ、っていう姿勢を取り続けることです。

「お預かり」の時間は、ママにとっては自分の時間を過ごす、親子という単位じゃなくて1人の人間として過ごす時間となるでしょう。子どもにとってはママ以外の人に手助けをしてもらいながら「不安」な自分からどう「快」の自分を取り戻していくかを探していく、新たな自分を形成する時間となるでしょう。保育者の私にとっては、時間がたつうちに、子どもと仲良くなるきっかけが必ずあって、そのきっかけを探るのが私にとっては楽しいし、心が通ったと思った瞬間に感動を覚えています。そのきっかけを手がかりにお預かりの時間が豊かなものになるよう子どもに関わっているつもりですが、それでも「ただいま」のときにお子さんがママに見せる何とも言えないほっとした表情を見ると、 ああ、やっぱりママにはかなわないな、と思いつつ、とても幸せな 気分にもなっています。

おまけ

「じゃあ、泣かないワタシの子どもは?」もちろん、泣かずに機嫌良く遊んでいられる子もいます。初めてのことに「わくわく」するか「どきどき」するかの違いですね。大人だってそうでしょう。「不快」「不安」よりも「わくわく」の気持ちの方が強いお子さんは、泣かずに過ごすことができます。 それでも、いつもは泣かないお子さんが今日は泣けてしまったり、またその逆もあったりで、その日の体調や心持ちによるところも大きいものです。泣く、泣かないを気にし過ぎず、ママは自分の時間を有意義に使ってほしいですね。

( 2014年8月号)

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